2017年11月23日木曜日

相田啓介:爆弾漆始末記

前回、爆弾漆の由来などを述べましたが、実際にそれを使用した体験や感想などを書き連ねてみたいと思います。

70数年前の漆を、いくら何でもそのままそれ一本で使うことは出来ないので、手持ちの漆と(爆弾漆)4:6(手持ちの漆)でまぜあわせました。爆弾漆は乾き出し乾き始めが大変早く、刷毛目も残りフシ(チリ)を上げた跡も残ってしまう厄介なものでした。そして、下手に湿気を与えすぎると白く焼けてしまう、気難しい漆だったのです。
 
しかしその強さ、肉持の良さなど第一級のものですので、何とかしたいと思いました。
手持ちの漆を混ぜようが、その強烈な個性が際立ち、そして主張してしまうのです。
多分、初鎌漆(6月ごろに採取する大変乾きの早い漆で通常は精製漆にしない)をかなりの分量の割合で混ぜ合わせて「くろめ」てあると思われました。
どんな条件の下でも乾くのは、軍需用漆として当然の事なのでしょう。10数年前に、別の爆弾漆を使用していた知人も、やはり同じ様な特性の漆であったとのことでした。60年前の漆にしては粘度が低く、その点では使いやすかったそうです。

現在生産された漆が60~70年後に同じ様な漆として使用できるかどうか分かりませんが、言えることは今の漆は細い若木の漆であり、70年前の爆弾漆は多分年数を経た太い木の漆が主体ではなかったかと思っています。今の若木の盛り漆(いちばんよい時期に採取した漆)は粘度が大変低く「サラサラ」といった感じで大変使いやすい漆ですが肉持ちなどはそれほどでもありません。太い木の漆は肉持ち強さ共に良いのですが、少し粘りがあります。爆弾漆が70年前どのような漆であったのか今は知る事が出来ません。想像してみるだけです。
たとえばウイスキーやブランデーやワインなどは60~70年物ともなれば大層なものですが、初期の品質が良くなければそれだけの年数には耐えられないそうです。
漆も元が良くなければ、それだけの年数には耐えられません。
この爆弾漆を何とか使いこなすのには「くろめ」直しをしてみる他に手は無いと考えが及びました。

漆の「くろめ」(精製)とは漆に熱を加えながら攪拌し、ゆっくりと漆の中の水分を抜く作業の事です。精製漆(くろめ漆)は、特に日本産漆の場合は年数の経過と共に空気中の水分をわずかですが取り込みます。その結果乾きが速くなり刷毛目が立ちやすくなりうまく塗れなくなることがあります。もう一度水分を抜く、つまりくろめ直しをすれば良いのですがあまりお勧めは出来ません。枯れこみ、つまり固まり方がおそくなりわずかに粘度も高くなります。

今回はくろめ直しがうまくいったようです。塗りやすいという程では無いとしてもなんとか使いこなせる程にはなりました。ただし厚塗りは厳禁です。
うまく塗り上がったこの漆のこっくりとした深みのある塗り肌は格別なものでした。
この様な骨董品とも言える漆を塗ってみて、また一つ漆の奥深さを知ることが出来ました。
今度の二人展にその一部を展示する予定です。このような年代物の漆のすばらしさを多くの人に感じ取って頂きたいものです。


バクダン漆で塗り上げたお椀。



裏側。




11月29日~12月5日まで、
二子多玉川高島屋 本館5階 器百選

相田漆工 二人展

よろしくお願いいたします。